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| 拙者の名は、聞き耳半蔵。日々、忍術を習得せんと精進する一介の忍者でござる。拙者の使命は、山を下りて忍法を使いこなし、男女の"色恋沙汰"を聞き出すこと。何故、忍びの者にそのようなことが必要か、それはお師匠様曰く、人情の機微を知るため。拙者はその尊いお考えに応えるべく、コーヒー忍者を襲名したでござる! |
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| 忍忍。ここは、新宿2丁目と3丁目の間。つまり此岸と彼岸の境目とも言いうるゾーンでござる。このあたりのカフェには、(生物学的な意味での)男女のカップルはあまりいないが、その分同性のカップルはたくさん拝むことができるわけだ。そこで拙者は、オープンテラスのある洗練されたイメージのお店を選んだでござる。
早速目に飛び込んできたのは、クネクネと体をしきりによじらせる男性(以後、クネ男)と、和製ア●トニオ・バンデラスといった特濃ソース顔の男性(以後、デスペラード)のカップルで、この2人は特に異彩を放ち、否が応にも拙者の聞き耳を立たせた。すると、拙者の存在に気づいたクネ男がこう呟いた、「あら、カワイイ子♪」。
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| しかし、客を初め、店員までもが拙者に流し目をしてくるこの状況下では、叱りつけるなど自殺行為に等しい。「ノーマル」な拙者はもはや、忍法“レジェンド・オブ・メキシコの術”で応戦せざるをえまい……。この術はつまり、懐中に忍ばせていたマンドリンを取り出して、ラテンミュージックを即興でやるというものである。また、このとき大事なのがテラス席のみを利用するということでござる
(これは単純に、逃亡路を確保するためである)。ただ、これがまた実際に弾いてみると、「ブラボー!! フォー!フォーフォー!」などと案外ウケてしまったではないか。 |
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| 認めたくはないが、この術はどうやら裏目に出てしまったようだ。拙者は気がつくと、喝采を浴びながらデスペラードの厚い胸板に包まれていたでござる。胸筋には自信がある拙者といえども、このときの力強く情熱的な抱擁といったら……しかも、それを傍で見ていたクネ男が嫉妬に燃える目で拙者を見るではござらんか! そしてそれは、とがめるような熱視線となり、改めてデスペラードへと注がれた。 |
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| 拙者はこのとき、意識が遠のいてゆくのを感じたでござる。ただ、それはほんの刹那であり、すぐさまデスペラードは、彼に対し100万ドルの笑顔を見せてその答えとした。そしてほどなく、クネ男は深い瞳を潤ませて納得し、うっとりとした顔つきでデスペラードの手を握り締め……嗚呼、万事解決でござる! いや、分かってはいたものの、やはりここは天国にも地獄にもなりうる場所でござったな……あしからず。 |
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| ズバリ、教訓は「身をわきまえろ」ということ。さすがの拙者も、今回の潜入捜査ばりの体験には肝を冷やしたでござる。聞き耳を立てるどころか、無事に生還するのがやっとという惨憺たる結果であった。やはり、純ジャパの拙者にはラテンという偽装は荷が重すぎたでござるよ……。 |
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