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| 拙者の名は、聞き耳半蔵。日々、忍術を習得せんと精進する一介の忍者でござる。拙者の使命は、山を下りて忍法を使いこなし、男女の"色恋沙汰"を聞き出すこと。何故、忍びの者にそのようなことが必要か、それはお師匠様曰く、人情の機微を知るため。拙者はその尊いお考えに応えるべく、コーヒー忍者を襲名したでござる! |
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忍忍。ここは、某シアトル系カフェ。店員が「こんにちはぁ」と、妙に高いテンションで挨拶してくるところでござる。拙者は、レジの軟弱な男を一瞥した後で『あめりかーの』を頼み、奥のソファに陣取ったのだが、突然こんな声が耳に飛び込んできた。「やっぱり、別れようよ」。……断っておくが、拙者はただ修行のためだけに聞くのであって盗み聞きを好むのではない。
「別れるも何も、付き合ってたの?俺たち」、続いて聞こえてきたのはそんな台詞だった。 |
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娘さんは、早くも涙ぐんでうつむき加減になっている。このままでは、周りに気を遣い外に出てしまう……拙者はこんなとき、忍法“書生の術”を使う。つまりは、胸元からいかにも難解そうな本を取り出し、その本に熱中したフリをするでござる。そうすれば、拙者は娘さんにとっては風景となり、気にする対象ではなくなるのだ。
ほどなく娘さんは、拙者の思惑通りその重い口を開き始める。「私のこと好きだって言ってくれたじゃない? どうして他のヒトと……」、その言葉はすがるようにもとがめるようにも聞こえ、拙者の胸を熱く焦がした。だが一方で、その言葉を聞いた男は「だからさぁ、好きは好きだけど、彼女とか微妙にめんどくさいんだよね」などとほざくではないか。拙者は、怒りに胸をかきむしられながらも書生であることを心がける。その男はさらに続ける、「俺はさ、縛られたくないの。お前も俺もお互いに好きならそれでいいじゃん?」と。 |
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| 2人の空気は明らかに歪み、店内は空いてはいたものの、淀んだ雰囲気を醸し出すようになっていた。拙者は、飲むのを忘れたドリンクを握り締めたまま、2人の機微を肌で感じた。娘さんは、相変わらずうつむき加減で聞いていたが、男の話がだんだんと慰めムードに入ると、ついに彼女はにかんだような笑顔を浮かべてこう言った。「……うん、そうだよね。私たっくんのこと大好きだもん☆」。 |
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| ここにいい男が……いや、言うまい。拙者は修行中の身、いわば空気と同じでござる。身を引き裂かれんばかりの思いでやり過ごすしかないのだ。結局2人は、何事もなかったように手に手を取り合うようにして店を出ていった。取り残された拙者は、ぬるくなった『あめりかーの』を飲み干し、釈然としない気持ちで店を後にした。嗚呼、いつもより風が刺々しい……あしからず。 |
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| 今回の教訓は無論、悪いアイツの思う壺になってはならぬということでござるが、二人のそばにいながら自ら風景と化す“書生の術”のみがこの教訓を得ることを可能とする。ただ、この術を使うたびに「カップルのあり方とは何ぞや?」と考えさせられてしまうのは甚だ問題でござる……。 |
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